1.感染症対策 |
本県においては令和6年4月より感染症対策の基本的な方向性や取り組み、各主体の果たすべき役割を示し、感染症対策を総合的に推進するべく、新たに「感染症予防計画第5版」(6カ年計画)が実施されたことから、本会においてもこれに沿って県や市、県医師会等と連携し、対策に取り組む。
先ずはコロナ禍において行われていた助成や補助、診療報酬の特例加算、物品類の支給が廃止された中で、発熱外来等の1次対応を担う医療機関(協定締結医療機関)について、必要な数の確保を図る。
我が国において、約3,400万人の感染者と74,000人を超える死亡者を出した新型コロナウイルス感染症への対応経験を生かし、平時より行政や感染症指定医療機関・急性期病院・療養病院・診療所・高齢者施設との連携を深め、夜間休日急患センターの機能強化を図るとともに、感染拡大時やゴールデンウイーク・お盆・年末年始等、医療体制が手薄となる期間を含めて万全の提供体制を整え、1次と2次の役割分担の徹底等により医療崩壊を防ぐ。
また「感染対策カンファレンス」や「北九州地域連携カンファレンス」「医療安全対策研修会」等の開催を通して、医療従事者の感染症に対する知識や技能を高めるなど、医療機関が取り組む新興・再興感染症対策を支援する。
更にコロナばかりでなく、インフルエンザ、RSウイルス、アデノウイルス、マイコプラズマ、A群溶血性レンサ球菌の他、本県でも発生しているエムポックスの動向についても注意しなければならない。
梅毒については近年感染者数が増加し、本市においてもこの1〜2年で急増し、200件を超え、過去最多の患者数となっており、AIDS等の性感染症とともに行政と一体となって市民への啓発や検査を勧め、医療機関に対しても対策等に関する情報提供を行う。
本市において、集団感染が発生し、毎年、全国平均よりも人口10万対罹患率が上回っている結核は、依然として主要感染症であることを改めて認識するとともに検診受診率の向上を通して早期発見・早期治療に繋げる等の取り組みを強化しなければならない。
感染症に対しては市民の科学的な根拠のない予防接種に対する負のイメージを払拭し、新型コロナウイルスワクチンをはじめとした各種予防接種の接種率向上を図るべく、 引き続き行政に対し、より多くのワクチンの公費化を求めていく。
福岡県がワンヘルス対策における先進地区として、人と動物の共通感染症対策や共生社会づくりの推進、ワンヘルス宣言事業者登録制度の普及等、先駆的な対応に取り組む中、本会においても北九州市や北九州市獣医師会と締結した「ワンヘルス推進宣言」に基づき、市や県が設置するワンヘルスセンターや歯科医師会・薬剤師会を含めた四師会の連携を強化し、市民に対する正しい知識の普及に向けた啓発活動等に取り組む。
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2.医の倫理の高揚と医療安全対策 |
近年、医師の違法薬物の乱用や飲酒運転をはじめとした道路交通法違反、診療報酬の不正請求、猥褻事犯等による行政処分が増加している。これらは医師として以前の問題ではあるが、残念ながら同様の事例は本市においても発生しており、我々は他人事として現実を看過することなく甘受し、改めて医師としての倫理観を高め、自浄作用の活性化に取り組んでいかなければならない。
現代社会は多様性の尊重や患者意識の変容等に伴い、医師と患者の関係はこれまで以上に繊細で複雑化している。時に患者にとって最良と思われる治療が身体的な問題や経済的理由、宗教的観念等から受け入れられないこともあり、医師としての専門的な立場からの提案を行いつつも患者の判断を尊重し、寄り添う医療が求められている。
高齢社会を迎え、医療がこれまでの診断・治療に加え、支え・寄り添う医療、緩和ケアをも包含するものへと大きく変化をする中、引き続き日本医師会の「医の倫理綱領」や世界医師会の「医の倫理マニュアル」、福岡県医師会の「医道五省」等を周知徹底し、医師としての職業倫理指針を示すとともに会員ひとりひとりの自浄作用を活性化させていく。
医療の公共性を重んじ、法規範の遵守と法秩序の形成に努めるとともに、医療を通して社会の発展に尽くすべく地域活動にも積極的にその使命を果たしていかなければならない。
そのため、医師は常に高度な倫理観と医師としての矜持を持って自らを律しながら、弛みない自己研鑽を通して知識と教養を深めるとともに、人格を高め、ノブレス・オブリージュの精神をもって日々の診療や地域活動に取り組まなければならない。
安心安全な医療の提供は医師と患者・家族の信頼関係の根幹を成すものであり、引き続き医師・従事者へ「医療安全対策研修会」や「ハートフル研修会」等、市医師会や県医師会が開催する研修への積極的な参加を促し、患者の安全確保と医療の質の向上を最優先とした医療安全対策の推進に取り組み、市民の医療への信頼をより一段と向上させていく。
また日本医師会の医師資格証や本年作成予定の本会のロゴマークの普及を通して、医師会員としての意識の高揚や医師としての使命感、職業倫理の醸成をはかる。
一方、昨今、個人が企業や団体に対して理不尽なクレームや侮辱的・威圧的に振る舞う、いわゆるカスタマーハラスメントが横行している。その多くは一方的な思い込みや勘違いであったり、ただのわがままな要求であったりする。
医療現場においても同様に事実無根の言い掛かりや根拠のない要求、大声や奇声を発して診療を妨害するなどの暴力的な振る舞いや威圧的な言動が跋扈している。
こうした医師と患者の信頼関係、延いては法的な準委任契約を大きく逸脱した行為に対しては毅然とした態度で望まなければならず、会員自身や従事者が安全に業務に従事できるよう、他業種における対策も参考にしながら警察や顧問弁護士とも連携し、助言を得て研修会等を通じ、有効な対策・情報を提供していく。また株式会社ケンイと連携し、クレーム対応保険等、有用な保険を紹介するなど、会員・従事者が安心して本来の業務に専念できるよう、必要な情報を提供するなど、負担の軽減を図る。
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3.生涯教育の充実 |
生涯教育は医師にとって最も重要なものの1つであり、医師としての本質を成すものであることから、本会においても日本医師会の「医師は日進月歩の医学・医療を実践するため、生涯にわたって自らの知識を広げ、技能を磨き、常に研鑽する責務を負う。医師の生涯教育はあくまで医師個人が自己の命ずるところから内発的動機によって自主的に行うべきもの」とする理念に基づき、会員に研修の場や学術文献の紹介、情報提供等を通した学習支援に努める。
特に医師が最新の知見や技術を習得して臨床医学の実践における医療水準を満たす医療を実施出来る様、必要な情報を提供し、スキルアップや安全対策、患者との信頼関係の醸成をはかるべく生涯教育制度の更なる充実に取り組み、患者、延いては社会からの信頼と期待に応え続けていかなければならない。
そのための研修内容については、各区医師会や専門医会、関係機関と連携して、時流にそった医学的・医療的テーマを選定し、より多くの医師が生涯学習に参加できるような体制を整える。
また新型コロナウイルス感染症を経験し、よりよき研修体制のあり方について引き続き検討を行い、開催方法も対面やWEB、オンデマンド配信など、研修内容等に応じた多様な履修環境を提供して、日医生涯教育制度の申告率・達成率の更なる向上を図る。
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4.地域医療提供体制の充実 |
本県においては令和6年度よりはじまった「第8次福岡県保健医療計画(6カ年計画)」「福岡県健康増進計画{いきいき健康福岡21}(12カ年計画)」「第4期福岡県がん対策推進計画(6カ年計画)」「第2期福岡県肝炎対策推進計画(6カ年計画)」「第4期医療費適正化計画(6カ年計画)」「福岡県感染症予防計画(第5版){6カ年計画}」等の真っただ中にあり、各種の計画に沿った対応に取り組むとともに中間評価に向け、課題等についての検討を行う。
2025年を目標に病床の機能分化や再編に取り組んで来た地域医療構想は新たに医療・介護需要がピークに達すると言われる2040年を視野に、これまでのような病院を中心としたものばかりでなく、かかりつけ医機能や在宅医療・救急医療・医療と介護の連携等、地域における医療提供体制全体の構想を策定することになった。2次医療圏においてより身近な地域を単位とした詳細な検討が必要になることから、これまで以上に医師会の果たすべき役割は重要さを増し、地区医師会との連携をより深化させ、地域医療構想調整会議をより実効性を伴う場として運営していかなければならない。
今年度より、厚生労働省が「より国民にわかりやすい情報提供を」ということで新たにはじめるかかりつけ医機能の報告については、会員が疑問や不安を抱くことのないよう、迅速な情報提供に努め、必要に応じた講習を行っていく。
また研修については、現場に即した内容やタイムリーなテーマを取り上げ、地域の医療・介護に取り組む施設やその従事者を支援し、地域における医療・介護の更なる充実と質の向上をはかる一方、北九州市や関係機関と連携し、障害者施策や難病・発達障害者支援にも注力する。
更に救急・災害時や生涯保健、多職種連携等、切れ目のないサービスの提供を目的に取り組んでいる北九州とびうめネット(医療情報ネットワーク)の更なる拡充を図り、迅速で充実した医療の提供を推進する。
今後、高齢者人口の伸びが徐々に鈍化する一方、15〜64歳までのいわゆる生産年齢人口(現役世代人口)は急減するとされており、厚生労働省は医療介護需要がピークとなる2040年には必要な医療福祉分野の就労者1070万人に対し、974万人の確保にとどまることから100万人程度の人材不足が生じると推計している。最新の統計では全国で行われている介護予防や健康寿命の延伸策により、要介護者の推計が若干減少するため、人材確保数も減少する見通しだというが、劇的に改善するものではなく、大幅な不足に変わりはない。
本市においても医療・介護分野だけでなく、将来的な就労人口の不足は深刻な問題となっているが、人材の養成・確保は人口の流出から少子化対策、個人の職業選択の自由等多岐にわたる大きな問題であるため、行政や関係機関と連携した総合的な施策として取り組まなければならない。武内市長も「日本は人口減少社会に入ったが、本市は全国の減少ペース以上に減っていることから、これを増加に転じさせるため、企業と子育て・教育が重要だ」としており、医師会として市が実施する必要な対策には積極的に協力していく。
特に、地域医療の重要な担い手である看護・介護職の確保については、養成校が減少するなかで、簡単ではないが、新たな確保策を早急に検討し、対応し続けていかなければならない。
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5.救急・災害医療対策 |
救急医療は毎年北九州市民を対象として行われる意識調査において、「評価」「要望」とも絶えず上位に挙がる市民にとって最も関心の高い問題の1つであり、自治体にとって市民が安心安全に暮らすための根幹となる基本政策である。
消防庁の「救急業務のあり方に関する検討会」の報告書によると、実に救急搬送の6割超を高齢者が占めている。今後も人生100年時代を迎え、新型コロナウイルスに象徴される感染症の発生や近年の猛暑の夏による熱中症へのリスク等を鑑みると今後も確実に増加が見込まれる。そんな中、在宅や高齢者施設における比較的軽症の救急患者への対応については、実際に搬送されている高次救急医療機関の役割と乖離しているため、本来診るべき重症患者への受入に支障を来す等の問題が生じている。こうした問題は全国でも深刻化しており、地域包括ケア病棟を有する医療機関の役割の強化やいわゆる下り搬送と言われる高次医療機関からの受け入れ医療機関に対する適正な報酬の設定等、相応の評価が必要である。
本市においても、引き続き地区医師会とともに行政や専門医会、病院、産業医科大学等と連携し、開業医を中心とした初期救急と病院による高次救急による役割分担をベースとして、救急に対する会員意識をこれまで以上に高め、限られた医療資源の中で、1次対応は先ずかかりつけ医が行うということを徹底していきたい。
その上で、医師の働き方改革を踏まえ、夜間休日急患センターへの公正公平な出務体制の見直しやサブセンターのあり方についての議論を深化させ、より実態・現状に即した現実的な救急医療体制の再構築を図る。
行政や関係機関と協働しながら、介護予防や健康寿命の延伸を図るとともに、いわゆる時間外受診的なコンビニ受診を排し、「救急医療電話相談#7119」や「小児救急医療電話相談#8000」の周知をはじめとした市民の適正な救急受診に対する啓発活動にも取り組む。
近年、地震や大型台風、線状降水帯の発生等、気候変動に伴う自然災害や人的災害が各地で頻発する中、日頃からの緊急連絡網訓練の実施や座学と実技・訓練の両面から成る、より有益な災害医療研修等を通して、会員や従事者の災害医療に対する理解を深め、知識と技術の向上を図る。
また医師会役員はもしもの際に遅滞なく中心的役割が果たせるよう、より実践的な対応を体現できる災害医療作戦指令センター(DMOC)による訓練に積極的に参加して日頃からの災害意識を高めるとともに、各区医師会と俊敏に機動的な対応が行えるよう、システムや体制の確認、シミュレーション等に取り組む。
更に新型コロナウイルス感染症を経験し、より実態に即した「医療救護計画」の改訂を行う。
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6.少子高齢社会対策に向けた取り組み |
昨秋は政府が高齢社会対策を推進するために、中長期にわたる基本的かつ総合的な指針を定めることとされている高齢社会対策大綱が6年ぶりに改定された、
北九州市の高齢化率は公的な介護保険制度が導入された平成12年(2000年)は19.2%であったが、この間一貫して全国平均を上回って上昇し続け、今や32%近くにまで達している。また本市の特徴である独居や高齢者のみの世帯が多いことから、支え・見守る医療にも注力していかなければならない。
引き続き大綱の「2.健康・福祉」に掲げられた「将来にわたる健康づくりと介護予防の推進」「地域包括ケアシステム構築の深化」「認知症施策の総合的かつ計画的な推進」「がん対策」「必要な介護サービスの確保と質の向上」等に取り組む。
かかりつけ医については予防から検査・診察・診断・治療、その後の対応から必要に応じた高次医療機関や施設への紹介に至るまで、身近に何でも相談できる存在として、新たにはじまる機能報告も踏まえて、少子高齢社会対策の中心的役割を担わなければならない。
そのために医師会は多様な職種や機関との連携推進や研修機会の提供等、引き続きかかりつけ医の支援に努め、患者や利用者が可能な限り住み慣れた地域で、それぞれが持つ能力に応じて自立した日常生活が送れるよう、地域包括ケアを充実させる等、地域の実情に即した医療・介護提供体制の構築に努める。
医師や医療・介護従事者を対象とした各種研修会の開催を通して、より質の高い医療・介護の提供や高齢社会対策の担い手となる人材の育成をはかる。特に今後も患者需要の増加が予測される在宅医療については、会員が取り組むための立場に立って、求められる内容の研修を企画し、必要な情報を提供していくなど、在宅医療に参画するために障壁となっているものを取り除き、担い手を増加させていく。
厚生労働省の研究班の推計によると、現在471万人と言われている認知症の高齢者数は2040年には584万人に達するとされ、高齢者の約15%、6.7人に1人にのぼるとしている。本市においても約4万人、高齢者の7人に1人、更に予備軍と言われる軽度認知障害者(MCI)を含めると、実に4人に1人が症状を有していると思われる。
認知症については社会的コスト(医療費+介護費+インフォーマルケアコスト)ががんの3.5倍を要するとされていることもあり、政府は昨年1月より新たに「共生社会の実現を推進するための認知症基本法」を施行し、国や地方公共団体は法の基本理念に則って、認知症施策を策定・実施する責務を有することを定め、今後は策定された認知症施策推進基本計画に基づき、各種の施策が推進されていくことになる。対策の基本となる「予防」と「共生」をキーワードとして、本市においても昨年改定された「北九州市認知症施策推進計画(通称:北九州市オレンジプラン)」をベースとして、掲げられた4つの基本的施策(「認知症の理解の増進と共生の推進」「保健医療・介護サービス提供体制の整備」「認知症の人や介護者への相談・支援」「予防」)を中心に取り組む。市の認知症支援・介護予防センターや認知症疾患医療センター、ものわすれ外来、認知症初期集中支援チームをはじめとした様々な役割を担う機関と連携しながら、認知症の早期発見、対応する人材の育成、市民への認知症に対する理解促進や相談窓口の周知等、予防・医療・生活支援・啓発等に注力する。
特に、具体的な目標値が定められたものわすれ外来設置数や認知症介護実践者等研修修了者数の増加に向け、数の確保だけでなく、認知症対応力向上研修等の研修内容をより充実させ、質の高い人材の養成や提供体制の整備を図る。
また日本では100人に6人ほどの方が生涯でうつ病を経験しているという調査結果があり、自殺者数は年間2万人を上回り続け、本市においても200人を超えている。このような状況から厚生労働省は最新の厚生労働白書において、初めて「こころの健康」をテーマに取り上げた。本会においても市の関係部局と連携しながら、必要な対策に取り組んでいかなければならない。
政府はこども・子育て政策について、2030年代に入ると、若年人口が現在の倍速で急減することになり、少子化はもはや歯止めの利かない状況になることから、この数年が少子化傾向を反転できるかどうかのラストチャンスだとして、掲げた加速化プランをできる限り前倒し実施するとしている。
少子化対策・子育て支援は国だけでなく、すべての国民・企業・団体等がそれぞれの役割に応じた対策に取り組むべき国家的課題であり、総合的に政策が推進されなければならず、医師会も引き続き保健・医療分野を中心とした担うべき役割を果たしていく。
乳幼児・園児に携わる医師や関係機関を対象とした研修を企画・立案し、質の向上に努めるとともに、乳幼児健診やペリネイタルビジット、産科健康診査をはじめとした切れ目のない妊娠・出産・子育て支援の強化を通して、引き続き「日本一子育てしやすい街」としての評価を不変的なものにしていく。
また虐待予防や医療的ケア児への対応にも取り組み、市が中心となって進める発達障害者への支援にも積極的に協力し、これを推進していく。
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7.地域保健活動の推進 |
北九州市や関係機関と連携し、予防接種や感染症対策の他、乳幼児期から学童期・青年期・壮年期・老年期に至るライフサイクルに応じた生涯保健事業を切れ目なく実施する。受診率の向上を図り、より充実した検診とするため、引き続き市に対し、非公費化の検診や新生児聴覚スクリーニング検査事業の全額公費負担を求めていく。
また学校健診については近年、学校医と児童生徒やその保護者とのトラブルが生じており、児童生徒のプライバシーを確保するとともに、正確な診察・検査を実施するため、教育委員会とこれまで以上に緊密な連携を図り、県医師会が作成している「脱衣及び着衣で実施する場合の留意点や主な工夫例を示したリーフレット」をはじめとした他都市での成功事例も参考にしながら、各学校と学校医が事前に充分な話し合いを行ったうえで、学校が児童生徒や保護者の理解を得るための説明を行い、実施することを徹底する。
治療だけでなく、人生に寄り添う医療が求められる中にあって、相談から治療・指導・観察に至るまで、多様な役割を担うかかりつけ医を支援し、その機能の強化をはかる。
恒常的な生活習慣による高血圧・高血糖等は死因のリスク要因であり、生活習慣の改善や行動変容を促す等の啓発を行うとともに、市民の健康づくりを支援し、現役世代からの健康づくりや高齢者への介護予防を推進して、健康寿命の更なる延伸をはかる。
特定健診・特定保健指導については直近の健診受診率が35.2%と微増しているものの、コロナ禍前の36.6%には至らず、また国が設定する「令和11年度(2029年度)に受診率60%」という目標値との乖離幅が大きなことから、市は特に受診率が20.3%と低い40〜59歳の若い世代を対象に受診勧奨を図るとしており、本会もこれに連携して受診率のアップに向けた取り組みに注力する。
厚生労働省の発表による「2023年の人口動態統計(確定数)」によると、がん(悪性新生物〈腫瘍〉)による死亡者数は38万2,492人(男性が22万1,358人、女性が16万1,134人)で、死亡総数に占める割合は 24.3%、昭和56年(1981年)以降連続して死因の第1位であり、本市においても毎年3人に1人ががんで亡くなられている。昨年度から新たにはじまった6カ年計画である「第4期福岡県がん対策推進計画」に掲げられた「がんに関する正しい知識を持ち、避けられるがん死を防ぐことやがんの病態に応じて、安心かつ納得できるがん医療や支援を受け、誰一人取り残さないがん対策を推進する」という全体目標を共有し、がん検診の受診率の向上等を図り、国の提唱する「予防」「医療」「共生」を通して、がん対策の推進に取り組む。
毎年約1万人の女性が罹患している子宮頸がんについては、専門医会と連携しながら、本市の対策キャッチフレーズである「お母さんは検診、娘さんはHPVワクチンを」を徹底していく。また部位別がん罹患者数が圧倒的に多い乳がんについては引き続きピンクリボン運動をはじめとした各種のイベントとタイアップするなど、更なる検診受診率の向上に注力するとともに、デジタル読影の円滑化と充実をはかる。
循環器病は心疾患の死因が2位、脳血管疾患の死因が4位で、あわせて年間に33万5,574人の方が亡くなられ、死亡総数に占める割合も21.3%となっている。発症後は介護が必要となったり、回復期や維持期にも再発や憎悪を来たしやすいことから、政府は予防や正しい知識の普及啓発、保健・医療・福祉サービスの充実等を柱に、健康寿命の延伸や死亡率の減少を掲げている。本会においても小児期からの運動・栄養・睡眠等に関する健康教育を通した適正な生活習慣の習得等、正しい知識の普及啓発や早期発見早期治療に繋げるための切れ目のない健診体制の整備等、循環器病対策の推進に取り組む。
喫煙は言うまでもなく、がんをはじめ、循環器疾患や糖尿病・慢性閉塞性肺疾患等、生活習慣病の最大の危険因子である。未成年者や妊婦・職場等における望まない受動喫煙をなくすことを目的とした改正健康増進法の主旨に則って対策に取り組む。厚生労働省が実施する「国民健康・栄養調査」における最新の喫煙率は14.8%で、現行方式による調査の実施以降最低を記録したが、政府が健康づくり計画(健康日本21)で定めた目標値である12%には達していないため、引き続き啓発の強化等を通して、喫煙率自体の減少にも努める。
更に近年、アルコールをはじめとした依存症や職場におけるメンタルヘルスの不調、過重労働による健康障害、各種の健康相談が増加する中、産業医が「作業管理」「作業環境管理」「健康管理」の3管理に加えて、適切な助言等により、予防や早期対応が図られるよう、産業医科大学の協力を得て、時流にそったテーマの産業医研修会を企画開催し、産業医の質の向上等の支援に努める。
また地域産業保健センター事業を活性化させ、小規模事業場に対する支援を通して、労働者の健康保持増進に貢献していく。
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8.勤務医活動の支援 |
会員数の6割を占める勤務医に対し、引き続き医師会活動への参画・協力を促すとともに、特に救急医療については需要増により、急患センターの役割が増すことから、出務が可能な勤務医には積極的な出務を求めていく。
勤務医医学研究助成論文事業を実施し、勤務医の研究活動の支援に取り組むとともに病院交流会や医学集談会の開催等を通して、病院間や開業医との連携の推進に努める。
また北九州専門医レジデント制度や研修医歓迎レセプション、研修医症例報告事業等を実施し、研修医の支援をはかるとともに、本市における医師・研修医の安定的な確保をはかるべく実状に即した対応を行っていく。更に日本医師会が進める勤務医・若手医師の入会促進と入会後の定着、医師会活動への積極的な参加を支持し、本会においても広く呼びかけ、同様に取り組む。
「医師の偏在対策」については、本市における適正な医師数を確保すべく、相互に関連し合う「地域医療構想」「医師の働き方改革」との三位一体改革として都道府県単位で検討が行われることから、日本医師会の「医師の負担軽減」や「地域の特性に基づく確保対策」「多職種連携の推進」という立場に立って、人口や医療提供体制・医療機能等からみて、適正な配置となるよう、県医師会や県医療対策協議会等に対し、繰り返し制度の矛盾を訴え、粘り強く是正を求めていく。あわせて行政や病院の垣根を越えて、若手医師にとって魅力ある職場づくりを目指し、関係機関に働きかけ、本会自らも情報の発信等に尽力していく。
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9.働き方改革 |
昨年度よりはじまった「医師の働き方改革」について、日本医師会が制度の施行後に行った調査によると、「宿日直応援医師の確保が困難になっている」と答えた医療機関が21.6%で、結果、地域医療への影響について、15.6%の医療機関が「救急搬送の受け入れ困難(断り)事例の増加」と答え、救急医療体制や小児医療体制の縮小・撤退と答えた医療機関もあった。当初から懸念されていた救急医療への影響が実際に数字として示される結果となった。日本医師会は「医師の健康への配慮」と「地域医療の継続性」の両立という観点から医師個人の希望が反映されるような働き方改革を進めていかなければならないとしており、今次の詳細なデータを都道府県医師会に還元し、それぞれの医療機関をサポートする検討材料として活用を促し、それを超える対応が必要な際には日本医師会としても支援策を検討するとしている。本市においても県医師会と連携し、救急や小児科・産婦人科等医療資源が僅少な専門科における医療提供体制への影響を注視し、必要に応じて上部団体への支援を求めていきたい。
また医師の働き方改革を進めるための他職種へのタスクシェアやシフトの検討については、日本医師会の「医療安全の確保を確実に実施し、医師によるメディカルコントロールの下でのチーム医療を推進していく」とする立場を支持するとともに、特に医師に課せられた過剰とも思える書類の作成業務等については、一部の廃止や簡略化、シフトの推進等、真に必要なもののみとするよう、働きかけていきたい。
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10.男女共同参画事業の推進 |
我が国が昭和60年に男女の完全な平等の達成を目的として制定された「女子差別撤廃条約」を批准してから40年。この間における取り組みは確実に推進してはいるものの世界的には依然として低い評価で、各界における個々の取り組みはいずれも充分とは言えない状況にあり、40年の節目を機に一層推進していかなければならない。
事実、我が国は世界経済フォーラムが毎年発表している「ジェンダーギャップ指数」の直近順位においても146カ国中118位と依然として低評価が定着している。
医療においては2024年の医師国家試験の女性合格者数が3,307名(男女比34.64%)と過去最高を更新し、世界の現状を踏まえて医療界においても妊娠・出産等固有のライフイベントを抱える女性医師への支援を一層推進していかなければならない。キャリア不安の払拭や就労支援、医療現場における理解促進等、女性医師が抱える問題を医師会全体で共有し、対応していくための一環として開催している「職場環境改善研修会(旧男女共同参画推進部会研修会)」をはじめとした活動をより充実させるとともに、行政や関係機関との連携をはかりながら、女性医師がより働きやすい環境作りに取り組む。
また日本医師会や県医師会が開催するセミナーに積極的に参加し、見識を高めるとともに最新の情報等を積極的に会員へ提供していく。
更に地域における女性医師指導者の育成を図り、引き続き女性医師が医師会活動に積極的に参画できるような体制づくりを進める。
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11.広報活動 |
北九州市医報、北九医FAXニュース、ホームページ等の充実を通して、必要な情報の迅速な提供に努める。
また県医師会と連携して市民への医師会活動の周知をはかるとともに、医師会や医療問題への理解・関心を高めていくための情報発信方法等について検討を行う。
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12.会員支援 |
医師会として会員相互の融和促進や会員福祉の向上を図るとともに、引き続き今後の共済保険制度のあり方について検討する。また税務や医業経営支援のための研修会の開催、診療報酬の算定をはじめとした医療保険に関する情報を迅速に提供していく。
医療機関に対する暴力や暴言等、迷惑行為の増加に対応するための情報提供や必要な保険制度等の紹介を行う。
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13.公益社団法人としての適正運営 |
公益社団法人として相応しい会務の運営をもって、公益目的事業を円滑に遂行し、不特定かつ多数の利益に貢献して、法に掲げられた「公益の増進及び活力ある社会の実現」に尽くす。またそのための健全で安定的な法人運営に努める。 |
14. その他 |
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